はじめに:その見積もり、本当に正確ですか?
マンションの給排水設備改修は、長期修繕計画の中でも特に重要な工事の一つです。多くの管理組合様が、複数の業者から相見積もりを取り、比較検討されることと思います。しかし、提示された見積もりの根拠は明確でしょうか?特に、築年数が経過したマンションでは、竣工当時の図面通りに配管が施工されていないケースや、過去の修繕履歴が不明確な場合も少なくありません。
今回は、私たち専門業者が実際に経験した事例をもとに、正確な工事計画と費用算出に不可欠な「事前の調査・設計」の重要性について、特に複雑な構造を持つ「中央給湯方式」のマンションに焦点を当てて解説します。
マンションの給湯方式、ご存知ですか?「中央給湯方式」とは
マンションの給湯方式には、各住戸に設置された給湯器でお湯を作る「各戸給湯方式」と、ボイラー室などでまとめてお湯を作り各住戸へ供給する「中央給湯方式」があります。
今回ご紹介する事例のマンションは、後者の「中央給湯方式」でした。この方式では、お湯が冷めないように共用部の配管内を常にお湯が循環しているのが特徴です。そのため、給水管(水を送る管)と給湯管(お湯を送る管)に加え、お湯を循環させるための「返湯管」という配管も存在し、各戸給湯方式に比べて配管システムが複雑になる傾向があります。
この複雑さが、更新工事の見積もりや計画において、特に注意が必要となる点です。
【事例】なぜ「すぐに見積もり」が出せなかったのか
先日、関東近郊にある複数の棟からなる大規模なマンションの管理組合様から、共用部の給水管と給湯管の更新工事について、お見積もりのご依頼をいただきました。早速、現地へ調査に伺いましたが、私たちは「すぐに見積書を提出することは難しい」と判断しました。
理由は、中央給湯方式の複雑な配管が通る地下ピットの状況が、想定以上に過酷だったためです。
ハッチが固着して開かない場所、人がようやく入れるほどの狭い入口、そして中に入れば他の専有部・共用部の排水管や給水管が入り乱れ、這いつくばって進むしかない…。目視できる範囲だけで全体を把握するのは不可能であり、今後の工事は相当な困難を極めることが予想されました。特にリゾートマンションのような美しい外観を持つ建物では、工事によって美観を損なうわけにはいきません。そうした配慮も計画には不可欠です。
正直に申し上げて、このような調査は専門家でなければ絶対にできません。しかし、現在使われている配管は、いずれ経年劣化で錆び、漏水事故につながる可能性があります。住民の皆様の安全な暮らしを守るためには、誰かがこの困難な調査をやり遂げ、未来への道筋をつけなければならないのです。
そこで私たちは、まず現状を正確に把握するための「配管調査・設計業務」を先に行うことをご提案しました。不確かな情報で見積もりを提出し、後から追加費用を請求するような無責任な仕事はできません。時間はかかりますが、この一手間こそが、最終的に質の高い工事と、管理組合様の安心に繋がると確信しています。
「調査・設計」を先に行う3つのメリット
工事の前に「調査・設計」のステップを踏むことには、管理組合様にとって大きなメリットがあります。
- 正確な工事範囲と費用の明確化
配管の現状を図面などで「見える化」することで、どこをどのように工事する必要があるのかが明確になります。これにより、憶測に基づいた無駄な工事や、後からの追加費用の発生リスクを最小限に抑えることができます。 - 現実的で最適な工法の選定
詳細な調査を行うことで、現状のルートに固執せず、より現実的でコストを抑えられる別ルートや建物の美観を損なわない施工方法など、そのマンションにとって最も価値のある工法は何かを検討し、選定することが可能になります。 - 総会での円滑な合意形成を後押し
専門家による客観的な調査報告書や図面は、工事の必要性や計画の妥当性を具体的に示す強力な資料となります。区分所有者の皆様への説明がしやすくなり、総会での円滑な合意形成をサポートします。
まとめ:急がば回れ。確実な更新工事は現状把握から
給排水設備の更新工事、特に「中央給湯方式」のような複雑なシステムを持つマンションでは、工事を着工する前の「現状把握」が成功の9割を決めると言っても過言ではありません。
「まずは概算だけでも」というお気持ちもよく分かりますが、根拠の曖昧な見積もりは、将来のトラブルの種になりかねません。マンションという大切な資産を守るためにも、まずは信頼できる専門業者に正確な調査を依頼し、現状をしっかりと把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
当社では、今回ご紹介したような詳細な調査・設計から、実際の更新工事まで一貫して対応しております。私たちはこれまで、図面が現存しない、構造が複雑で配管ルートが不明といった、様々な「難しい現場」を数多く手がけてまいりました。その経験と、困難な状況でも最適な計画を立案する設計力こそが、私たちの強みです。他社から敬遠されがちなマンションこそ、私たちの力が発揮できる場面だと考えております。配管の状況が分からずお困りの管理組合様は、どうぞお気軽にご相談ください。