はじめに:専有部の漏水、他人事ではありません
マンション管理組合の皆様、こんにちは。給排水設備の計画担当です。
「専有部の給水管から漏水が起きたが、どう対応すれば良いのか…」
「経験のない大規模な給水管工事を前に、信頼できる専門家が見つからない…」
このようなお悩みで、頭を抱えていらっしゃらないでしょうか。先日、築40年ほどの都内のマンション理事長様から、まさにこのようなご相談をいただきました。今回は、その実例を基に、多くの管理組合様が直面する「専有部の配管問題」について、専門家の視点から解説いたします。
なぜ専有部の漏水が「マンション全体の問題」になるのか?
今回ご相談いただいたのは、室内の給水管・給湯管(銅管)の経年劣化による漏水がきっかけでした。「専有部分の設備なのだから、その部屋の所有者が責任を持って直せば良いのでは?」と思われるかもしれません。しかし、集合住宅において、事態はそう単純ではありません。
専有部で漏水が発生した場合の大きな問題点は以下の通りです。
- 被害が階下に及ぶ
漏水は、発生した部屋の居住者自身が気づく前に、階下の部屋へ甚大な被害を及ぼすケースがほとんどです。天井のシミ、壁紙の剥がれ、家財への損害など、被害は広範囲にわたります。 - 責任の所在と費用負担
原則として専有部の修繕責任は所有者にありますが、漏水被害が拡大すると、マンション全体の資産価値に関わる問題へと発展します。 - 問題の再発リスク
漏水した一室だけを修繕しても、同じ時期に建設された他の部屋でも、同様の漏水がいつ発生してもおかしくありません。根本的な解決のためには、マンション全体での計画的な更新工事が不可欠です。
このように、専有部の一室で起きた漏水は、決して他人事ではなく、マンション全体の資産価値にも関わる重要な課題となり得るのです。
管理組合が直面する「業者選び」という高い壁
問題を解決すべく、多くの管理組合様がまず管理会社に相談します。しかし、管理会社任せにせず、管理組合としても専門的な知見を持つ業者を直接探したい、というケースも少なくありません。
では、管理会社を介さずに、直接工事業者に依頼しようとすると、今度は次のような壁に突き当たります。
- どの業者に頼めば良いかわからない
給排水設備の改修は専門性が高く、特に居住者の中に建設業界に詳しい方がいない場合、信頼できる業者を見つけるのは至難の業です。 - 相見積もりすら困難な状況
大規模な工事は、業者側も準備に多大な労力を要します。そのため、業者選定の初期段階では、なかなか詳細な見積もりの提出まで至らないケースも少なくありません。「比較検討しようにも、見積もりが集まらない」という、深刻な問題が起こりがちなのです。
今回ご相談いただいた理事長様も、まさにこの状況に陥っていましたが、ようやく相談できる業者が見つかったと安堵されていました。
なぜ工事は1年待ち?修繕を取り巻く深刻な現実
漏水が発覚しても、すぐに工事が始められないのには理由があります。全戸への影響調査や総会での決議といったプロセスに加え、近年、建設業界全体で極めて深刻な問題が起きているからです。
それは、「職人の減少」と「老朽化したマンションの増加」による、需要と供給のアンバランスです。
経験豊富な職人が年々減少している一方で、修繕が必要な時期を迎えるマンションは増え続けています。その結果、業者・職人の取り合いが発生し、工事の決定や着工までに時間がかかったり、費用が高騰したりする要因となっています。「もっと前に工事しておけば…」という話が、今や現実のものとなっているのです。実際に、数年前に比べて工事費用が1.5倍近くに高騰するケースも出てきています。
「まだ大丈夫」が危険信号。計画的修繕のジレンマ
ここまで読んで、「では、漏水が起きる前に計画的にやれば良い」と思われたかもしれません。それが理想であることは、言うまでもありません。
しかし、多くのマンションで、それが実行できないのには根深い理由があります。
- 危機感の欠如
ほとんどの居住者にとって、配管の更新は経験したことのない未知の工事です。管理会社から劣化診断の結果を見せられても、「まだ持つのではないか」と考えてしまいがちです。実際に漏水という被害が起こらない限り、危機感を共有するのは極めて困難なのです。 - 予測の難しさ
「では、あと何年持つのか?」と問われても、正確な予測は誰にもできません。この不確実性が、「まだ大丈夫」という先送りの判断を後押ししてしまいます。 - 修繕状況のばらつき
築40年を超えるようなマンションでは、既にリフォーム済みの部屋も少なくありません。不動産業者が中古物件を買い取り、販売前に室内をフルリフォームする際に、配管も更新されているケースです。そのため、「うちはリフォーム済みだから関係ない」と考える所有者が現れ、マンション全体で足並みを揃えるのが一層難しくなります。
専門家として「早くやった方がいいです」と申し上げても、そこに住む方々の実感が伴わない。このジレンマこそが、多くのマンションで問題が深刻化する根本的な原因なのです。
早期相談と準備が、問題解決の鍵です
ご紹介した通り、専有部の配管問題は、業者選定の難しさ、工事着工までに時間を要すること、そして居住者の合意形成という、複雑な課題が絡み合っています。
だからこそ、漏水が起きてから慌てて動き出すのではなく、築年数を考慮し、少しでも懸念があるのであれば、できるだけ早い段階で行動を開始することが、何よりも重要です。信頼できる管理会社にご相談される場合も、専門業者を直接探される場合も、まずは準備を始めることが、被害の拡大を防ぎ、最終的なコストを抑える最善策となります。
早期に行動を始めることで、理事会内でじっくりと情報を共有し、修繕が済んでいる部屋とそうでない部屋の状況を把握した上で、居住者への最適な説明方法を準備し、余裕を持ったスケジュールで業者選定などを進めることが可能になります。
私たちは、まず理事長様から現状のヒアリングを丁寧に行い、問題の本質を正確に把握することから始めます。建物の資産価値を守り、居住者の皆様が安心して暮らせる未来のために、豊富な経験と専門知識でサポートいたします。
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